「うつし世は夢」と江戸川乱歩

 今年は江戸川乱歩の没後50年に当たります。

 今の著作権法だと今年から乱歩の全作品が著作権フリーになるのですが、今のところ青空文庫をはじめとするWEB図書館のアクションはやや鈍い様です。
 ですがそんなタイミングで乱歩の本をわざわざ古本屋で買ってくる私もどうかしているのかもしれませんが。
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 昨年暮れの帰省の途中に立ち寄った古本屋で見つけた乱歩の随筆2冊。

 子供の頃には「怪人二十面相」「宇宙怪人」等のシリーズで、学生時代には「蜘蛛男」「黄金仮面」「パノラマ島奇談」などの幻想味と猟奇性溢れる作品で随分とお世話になりました。
 このうち「パノラマ島奇談」や「少年探偵団系」の思い出については以前このブログで触れた事がありますが、生前の乱歩は戦時中から死没までの長い期間子供向けを除いて殆どオリジナルの小説を発表していません。

 その一方で「探偵小説40年」「幻影城」など黎明期から現在(もちろん執筆当時の、ですが)にかけての探偵小説界の流れを俯瞰する随筆や文献を多数書いておりこれらだけでも結構な分量になります。

 最近の私が魅力を感じるのがそうした随筆集だったりします。
 今回購入したのは以前から復刻されていた文庫版の全集から「蔵の中から」「うつし世はゆめ」の2冊。
 (余談ですが生前の乱歩は自宅の蔵の中を書斎代わりに執筆していたそうです。そのせいか私もが「蔵の中の筆耕生活」と言う奴に一時期憧れたものです。が今どき中で生活できる蔵のある家なんてどこにあるのかw)

 何れも各作家、作品の評論のみならず乱歩個人の嗜好とか海外作品の紹介、探偵小説のあり方に対する一家言など、単なる随筆集とするには勿体無いほどの分量とジャンルの広さに圧倒されます。

 ここで感じるのは探偵小説の黎明期から常に大家として指導的な立場にあった筆者ならではの見識の深さです。
 それを支えているのはひとえに探偵小説全般に対する愛情でありひとつひとつの随筆の行間からそれが滲み出ているのを強く感じました。

 これと同じ印象は例えば鉄道模型界で言えば山崎喜陽氏のミキストだったり、オーディオ界で言えば長岡鉄夫氏の一連の随筆だったりしますが語り口こそ違え、共通する読後感を感じさせるのです。
 あらゆるジャンルで大局的な見地から俯瞰される随筆が存在すると言う事はそれ自体がそのジャンルの奥深さと成熟を語るものですが乱歩のそれはそうしたものの中でも群を抜いています。
 やはりこれは筆者自身が探偵小説の歴史と共に歩みつつ、自らもその中で筆を振るっていた泰斗であったという事が大きいと思います。
 一見主観的に見えて実はかなり客観性を持った語り口にはそういう背景もあったのではないかと思います。

 これがあればこそ読者の興味をより深くつなぎ止め、後の探偵・推理小説の隆盛につながったと見るのはいささか穿ち過ぎでしょうか。
 これほど「趣味に走ったジャンル限定の内容」なのに門外漢が読んでも清々しい読後感を感じさせてくれる本は珍しいです。



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