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「殺人金魚」

 先日来紹介している「江戸川乱歩シリーズ・明智小五郎」(昭和45年 東京12チャンネル・東映)から
 今回取り上げるのはシリーズは勿論東映のTVドラマ・特撮物の中でも異色中の異色と思われる一遍です。
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 何しろタイトルが「殺人金魚」!!未だかつてこんな凄いサブタイトル見た事がないというインパクトがあります。

 プロローグは明智小五郎の少年時代の回想からスタートします。 
 「幼い頃に縁日で買った金魚。うっかり金魚鉢を割ってしまった事から家の中のたらいや鍋を金魚鉢代わりにした小五郎少年に怒った父親が金魚を水洗便所に流さしてしまった」「金魚を助けようと水洗便所で釣り糸を垂れる明智小五郎少年」というシュール極まりない思い出が語られます。

 この出だしからただ者ではありません。
 ただしこれはクライマックスへの重要な伏線なので決してお忘れなきよう(笑)

 その回想を書いた随筆を読んだある男から明智にかかる電話
 相手の男は明智の随筆を「実にくだらんね!」と罵倒し
「金魚鉢というガラスの監獄で暮らすより、きたねえ下水道でくたばる方が金魚の幸福なのだ。死ぬことだけが救いさ。人間も家庭という名の孤島でうじうじするより一切合財切り捨てて月を憎んで流転の旅路に出発するべきなのだ。大海原に面した絞首台こそを目指すべきなのだ!!
 そう言い捨てた電話の主の青年、早乙女はこれから無差別殺人を行う事を予告して電話を切ります。

 やがて郵便ポストに潜んだ早乙女はそこから銃を覗かせると無関係な通行人を射殺。動機も衝動もない無差別殺人故に犯人と被害者の間の繋がりがないため捜査は暗礁に乗り上げました。

 次に新宿駅前で占い師を開いた早乙女、そこで悩みを語る客の願いを皮肉な形で次々にかなえてゆきます  

 糖尿病患者で甘い物を食べたくて仕方のないサラリーマンは「棺桶の中でキャンデーに埋もれた死体で発見され」
 公団住宅の抽選に外れつづけた家族を入居させるために「団地の水道に毒物を混入させ何と8500人を一時に殺害」するという破天荒さ!
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 アパートの各階から棺桶が次々に降ろされ、霊柩車が列をなす地獄絵図の中、喜々としてアパートに入居する一家の姿がこれまたシュールです。
 水道に毒を混入するというのはショッカー以来悪の組織の定番作戦なのですが仮面ライダー以前に個人による成功例があった訳です。恐らくテレビのヒーロー物、刑事ドラマでも個人による殺害者数ではダントツのトップなのではないでしょうか

 まるで「笑ウせえるすまん」の喪黒服三みたいですが本作の放映(1970年)は「笑う~」の連載開始直後というタイミングでしたから何らかの影響はあったかもしれません。

 そして最後に訪れたのは、片思いの相手だったファッションモデル二木真弓が当代随一のアクションスター結城洋一と結婚するのを知り自暴自棄になったストーカーの男妻木。
 早乙女はその男の復讐心を引き継いであるたくらみを図ります。

 結婚式当日ウェディングケーキに入刀するふたり。
 ところがその中からストーカー男、妻木の目を剥いた生首が現れ会場は大騒ぎになりました。
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 この生首ストーカー男を演じるのがプロフェッサーギルやガイゼル総統で特撮ファンに鮮烈な印象を残す容貌魁偉の名優、安藤三男なのだから衝撃度も物凄い!
 モデルに送り付けた自身のブロマイドの「しなを作った安藤三男のスマイルはもっと怖い!!」(笑)

 さて、早乙女は事件の混乱に乗じて結城洋一を拉致、倉庫の中に放り込みます。
 倉庫には山のように缶詰があるのですが、それを開ける缶切りはない。目の前に食料があるのにそれを食べる事ができないというシュールな飢餓状態の中、Aは日に日に追い詰められてゆきます。

 金ならいくらでも出すと命乞いをする結城洋一に「俺の方がお前なんかよりよっぽどブルジョアなんだよ!!」と罵倒。
 そう、早乙女は親の財産で金に不自由していなかったのですが、不治の病に冒され余命いくばくもない身でした。
 死ぬ前に道徳の箍を打ち破り、したい放題の事をして死ぬこと。そのしたい事というのが自らの心に潜む残虐な願望を満たす事そのものにあったのです。

 やがて悲嘆に沈む二木真弓の前に青年紳士として現れた早乙女は500万円の札束で彼女の心と身体を我が物にし、その証拠フィルムをAに突き付けて勝ち誇るのでした。

 死を前にして何物も恐れず、人の命や心を弄ぶ事を全く躊躇しないまさにピカレスクの権化のような早乙女のキャラクターはあらゆるドラマの中でもずば抜けた存在感を放ちます。
 彼に近いキャラクターと言うと怪奇大作戦の「かまいたち」に登場する動機無き無差別殺人者の工員、松男が思い浮かぶのですが、彼以上に残酷でここまで強烈な自己主張をするシリアルキラーはかつて映像化された事が無かったのではないでしょうか。
 (今ではもっと困難かも)
 クライマックスで明智に占い師の正体を暴かれた早乙女は逆に明智に銃を突きつけ、地下の下水道に連行します。

 「おいっ!ここがどこだかわかるかい。下水は東京の大腸さ。いや、俺が言いたいのはこの先がお前のマンションの下だってことよ。だからお前の墓場もそこにしてやる。
昔は誰もが人殺しだったさ。弱い奴を殺して生き残ったのが俺たちのご先祖さまさ。今だって見な。日本じゃ年に何百万もの赤ん坊がドブ川に捨てられるんだぜ。あれこそ立派な人殺しじゃないか」
 こう言い放ち勝ち誇る早乙女。
 それまで数々の猟奇犯罪者を断罪・勝利してきた明智小五郎もここに来て絶体絶命のピンチを迎えるのです!
 しかしその時、汚れ果てた下水の流れの中から早乙女の背後に忍び寄る巨大なふたつの目。
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 振り返った早乙女に「巨大な金魚の怪物」が襲い掛かり、恐怖に絶叫する彼をひとのみにして下水の奥に消えてゆきます
 呆然と早乙女の死を見送る明智。
 それは少年時代に可愛がっていた金魚の成長した姿だったのか?それとも大都会の暗黒の中で成長を遂げた怪物だったのか?
 すべては謎のままです。

 犯罪者心理に通じ探偵としての才能もありながら、それをもってしても倒せない常識はずれの強烈な悪意と知能、そして残虐性を持った相手を恐怖させ、葬ることができるのはその悪意以上に常識はずれの存在しかなかったのかもしれません。
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 ・・・なんて書くとカッコいいですが金魚の造形はどう見ても「光る眼玉の巨大なスリッパ」にしか見えない間抜けさだったりします。
 なのにそれを不自然に感じさせないのは食われる直前までの早乙女の強烈なキャラクターと不条理極まる犯罪描写あってのことかもしれません。


 その超ピカレスクなシリアルキラー、早乙女を演じたのは後に「ロボット8ちゃん」をはじめとして戦隊やメタルヒーローをも凌ぐ人気シリーズとなった東映不思議コメディーの名バイプレイヤーだった斉藤晴彦氏。
 今それらに出ている斉藤氏を観返すと早乙女のハイテンションな狂気あふれる演技の残渣を感じます。

因みにラストにはもう一つ衝撃的なシーンが加わるのですが今回はそれについては触れません。できれば本編を観て頂いた方が良い様な気がします。
 (実はこのラストは本編で唯一原作の「白昼夢」に忠実に作られています。と言うかこれがなかったら単なるタイトル借りw)

 この回は余りにシュール且つ後味の悪い描写の連続だったせいか本放映では放映されず、しばらくしてから単発番組として初放映されたといういわくつきの作品です。
 なお、同じ経緯で単発放映された最終回「殺人交響楽」はこの回ほど破天荒ではありませんが怪奇大作戦のある一篇を連想させる鬼気溢れる描写と展開でこれまた鮮烈な印象を残します。

 ここまで3回にわたって本作を取り上げましたが、この作品は前にも書いた様に特撮ヒーロー物や幻想物、エロス、猟奇サスペンスといった東映のある一面を凝縮したシリーズとして欠かすことのできない立ち位置にある作品と思います。
 しかしそれだけに纏まった文を書くのがこれほど難しいシリーズもなかったし、ここで取り上げなかった各話を一々書いて行ったらそれこそウルトラQ以上のボリュームになりそうな上に、くどいだけで分かりにくい文章に拍車がかかるだけの様な気もしたので今回は割愛しました。

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