午前3時の暇つぶし本から・薄田泣菫の「茶話」

 今回は久しぶりに真夜中の当直本のはなしから。
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 今回は薄田泣菫の「茶話」です。
 明治末期から大正にかけての世相やなどを皮肉の利いたコメントで語る随筆の元祖的存在です。

 内容の一例をあげるとこんな具合です。

神通力
10・12(夕)

 近頃東京の文学者仲間に妙な神様が流行している。神様というのは、ある鉱山師の女房で、その女は何処かで掘出して来たらしい大黒さんを座敷に祠まつり、そこに引籠つて、躄いざりを立たせたり、一寸(ちょっと)した頭痛持をなおしたりしている。

 お弟子は随分あるが、世間に聞えてゐる人達には、生田長江、小山内薫、沼波瓊音、栗原古城、山田耕作、岡田三郎助などいう顔触れがある。なかにも沼波瓊音氏は家族を挙げて、その女神様のもとにいりびたりになつている。

 千里眼問題このかた、こうした女の好きな福来友吉博士が、ある時沼波氏を訪ねると、主人は乗地になつて女神様のお蔭話を持ち出した。福来博士も夢中になつて膝を進めてゐると、急に夕立がざつと降り出して来た。
「困つたな。雨が降つて来た。僕は雨傘を用意して来なかつたが……」
と、福来博士は心配そうな顔をして空を見上げた。博士は心理学者だけに人間の事はよく注意してゐるが、お天道様さまは雨降りか雪降りかで無ければ余り気には掛けてゐなかつた。

 その顔色を見て取つた沼波氏は、
「なに雨ですか。雨だつたらお帰途までにはきつと止めて上げましょう。」
と平気な調子で言つた。博士は一寸返事に困つた。
「いや、雨傘が拝借出来たら……」
「雨傘はやっかいですから」と沼波氏はまじないの様に一寸自分の鼻をつまんでみせた。「いつそ雨を止めてしまいましょう。」
 しばらくして福来博士が帰る頃になると、果して夕立はからりと晴れ上つていた。博士はそれを見てすつかり沼波氏の神通力に驚いてしまつた。

 ――晴れたのに何の不思議があろう。相手は気短かの夕立で、博士はお尻の長い話し好きである。

 皮肉が効いていながらそれが嫌味にならず、却ってほのぼのとした感じすら与える筆致は真夜中に読むには一服の清涼剤であります。
 最近の無闇にとげとげしいコラムにも見習ってほしい所ではあります。

 以前ネットで読んだ事があり(最近青空文庫で一部がアップされています)中々面白かったのですが実際にはネットで出た数倍の量の原稿が書籍化されていると知りました。
 古本は新書にしてはかなり高価だったのですが、どうしても続きが読みたくなり買ってしまいました。

 この手の政治がらみの随筆は誰の書いた何を読んでも鼻につく所が多くて辟易するのが常ですが事この「茶話」に関する限りは時代のギャップを差し引いてもそうしたスノビッシュなところが少なく、安心して読めるところが人徳と思います。
 同じ作者の 「艸木虫魚」(青空文庫所収)等の草花や故事などを扱う随筆も中々良く、その筆致をそのまま世相や政治ネタに持ち込んで見せた感もあり、これが上述の様な印象につながっているのかもしれません。

 読んで引き込まれるというたぐいの本ではないのですが真夜中に読んで少し「くすり」とするにはなかなかいい本でした。



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