「せんとらる地球市建設記録」

 故郷とか現住地とかの地方都市の古本屋の場合、特定のジャンルの古書を探すのにかなり苦労させられます。
 欲しい本を見つける事自体相当に偶然に左右されますし、たまにそういう事でもあると他にもあるのではとあちこち探し回って失望させられるという事も一度や二度ではありません。
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 その意味では都会の専門ジャンルの古本屋というのはやはり有難い存在ではあります。
 必ず欲しい本があるとは限りませんしあっても自分に買える値付けでない事も多いのですが。

 今回はたまたま比較的安価に見つけられた方でしょう。
 
 星田三平の「せんとらる地球市建設記録」が収録された「新青年ミステリ倶楽部」がそれです。
 この作者については以前鮎川哲也の鉄道ミステリのアンソロジーで取り上げられていた事があり、上梓された作品数こそ少ない物のSFありコメディありミステリありと作者が自分の可能性を探ろうと様々なジャンルに挑戦していたと言う部分に惹かれていた作家であります。
 
 中でも代表作と目されていたのが「せんとらる地球市建設記録」なのですが元々が稀講本な上にたまに復刻されても中々手が出にくいのでこれまで読む機会のない作品でした。
 第一私自身、知っているのはタイトルだけでストーリーのアウトラインもまるで分らず、ただタイトルの持つ独特の妖しさに惹かれただけでしたから。

 それが収録されていた30年近く前のアンソロジーを見つけられたのも都会の古書店ならではの話ではあります。

 早速帰宅中の電車の中で読み始めましたがこれが一気に引き込まれました。
 電車の中で読んでいたのですが読み終わるまで30分立ちっぱなしだったのを忘れていた位です。

 本作はSFとミステリの融合を試みた最初の作品という立ち位置の作品(初出は昭和5年)とされていますが内容的には終末SFの走りの様な作品です。
 恐らく小松左京の「復活の日」や何度も映画化された「I am Regend」のルーツのひとつとも言えるかもしれません(こう書くと落ちが丸わかりなのですが汗)

 船の遭難で10日間漂流していた主人公の3人が10日目に千葉の海岸に漂着して見ると住人は一人残らず全滅、洲崎から東京までの道中どこまで行っても死屍累々と言う描写に先ず驚かされます。
 更に主人公たちが生存者を探して東京をさまよう中、荒廃した街の中で狂暴化した野犬の群れに襲われつつも軍の倉庫から見つけ出した重機関銃で立ち向かったり、生存者の一人を救出するために東京中を焦土化させるなど昭和初めの小説とは思えないほどのスケールの大きいシークエンスが目白押し。
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 やがて徐々に生存者が何人か見つかり始めるもあるものは殺されあるものは発狂自殺する状況の中、生き残りの一人である主人公の友人に「タイムリミットまでに横浜に向かわなければならない」と急かされるのに、主人公がその理由を説明されずただ不思議がるところはSFというよりは探偵小説的な文法を感じます。
 この「なぜ東京が全滅したのか」「なぜタイムリミットを設定されているのか」を小説の謎の主題に置こうとしているところが本作の特徴であり、あと一歩の所でSFになりそこなった理由の様な気もします。
 もしこれがSFとして描かれるならむしろ「そのタイムリミットの先に何があるか」の方が主題になるでしょうから。

 しかも前半3分の2を占めるシークエンス描写の良さに比べて結末の落ちはやや肩透かしです。

 とはいえ初出が昭和5年という作品が書かれた時期、終末SFの概念がまだ十分固まり切っていなかった(当時はまだ「地球最後の日」も書かれていませんでした)事を思うと止むを得ない気がしますし、それを差し引いても十分以上に楽しめる内容でした。


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